
同性愛という枠をこえた切なくもあたたかなヒューマンドラマでした。
ヤン・イクチュンの哀愁ある演技がすばらしい!
評価点80
〔2020.10.18投稿〕
もくじ
『詩人の恋』作品情報
監督:キム・ヤンヒ
キャスト:ヤン・イクチュン、チョン・ヘジン、チョン・ガラム
主演のヤン・イクチュンは監督、脚本、出演している映画『息もできない』(2009)で韓国の映画祭のみならず、ロッテルダム国際映画祭でグランプリを受賞するなど世界中の映画祭で高く評価された実力者です。
日本では『あゝ、荒野』(2019)で菅田将暉との共演でさらに注目が集まりました。本作では8キロもの増量をし、まるっこいフォルムですっかり別人!
やわらかく冴えない雰囲気と自然な演技が本作の物語の良さを何倍にも増幅させていました。
妻のガンスン役を務めたチョン・ヘジンはドラマ「ごめん、愛してる」(2004)で注目を集め、『王の運命-歴史を変えた八日間」『名もなき野良犬の輪舞』などで数々の映画賞を受賞している女優です。
ユシン役のチョン・ガラムは映画デビューとなる『4等』(2016)で大鐘賞と大韓民国映画賞で新人男優賞を受賞し、Netflixドラマ「恋するアプリ LOVE ALARM」でさらに人気を集めた新鋭俳優のひとりです。
『詩人の恋』あらすじ
自然豊かな済州島で生まれ育った詩人のテッキ(ヤン・イクチュン)は、ここ数年スランプだ。稼げない彼を支える妻ガンスン(チョン・ヘジン)が妊活を始めたことから、テッキの人生に波が立ちはじめる。乏精子症と診断され、詩も浮かばず思い悩む彼を救ったのは、港に開店したドーナツ屋で働く美青年セユン(チョン・ガラム)だった。彼のつぶやきが詩の種となり、新しい詩の世界への扉を開いてくれたのだ。もっと彼を知りたい―。30代後半にして初めて芽生えた“守ってあげたい”という感情を隠しながら、テッキは孤独を抱えるセユンと心を通わせていく……。
公式ページより引用
『詩人の恋』感想、考察
映画.comより引用
本作は、同性愛の枠を超えた人と人とのつながりを描いた作品です。
ユシンについて知れば知るほど、テッキの想いは単なる恋心をこえていきます。
自分本位なのが恋、相手のために自分を犠牲にできるのが愛だとするなら、テッキはユシンを愛してしまったといえるでしょう。
しかしテッキの妻への想いが完全にここで消えてなくなるわけではないというのが人間のあいまいで不確かな感情の動きを見事に描いたといえるでしょう。
お互いへの恋心やときめきがなくても、一緒にいて楽だったり心地よくて離れられないという夫婦特有の空気がとても自然に描かれていました。男と女の関係ではなく家族になっていくのは夫婦にとって自然な流れでしょう。
妻のなりふり構わない行動や発言に共感できる部分が多かったのですが、夫が男性を好きになったことではなく自分以外の人を好きになったことについて言及している点が重要だといえます。
あからさまに同性愛を非難するようなシーンを作らなかったことが、物語をエンタメ化しない、悪者をわざわざ作らないところに好感をもつことができました。
詩人を演じるヤン・イクチュンの凄さ
主人公が詩人という設定が見事に本作の題材にマッチしています。
詩だと、心の中でひたすら渦まく表現しにくい揺れる想いを絶妙な言葉づかいで表すことができるからです。
『息もできない』や『あゝ荒野』で観たヤン・イクチュンとはまた違った魅力が溢れて人間臭く冴えないキャラクターを見事に演じています。
自分の気持ちを確かめるように静かに悩む姿はリアリティを感じる部分です。
もう一度見たい印象的なシーン(注ネタバレしてます)
もっとも心打たれたのは、ユシンの誘いを断ったテッキが、これでどこにでも行けばいいとお金を渡すシーン。その男前すぎる発言にもしびれた…。
そして、家に帰り赤ん坊を目の前に涙を流すラストシーンは秀逸でした。
あたたかな日差しが差し込む中、赤ん坊への愛情をたしかに感じながらユシンを想い切なさがこみ上げる。
にじみ出る哀愁とそれでも前に進み続けるだろう主人公テッキの心の成長を感じられる美しいシーンだったと思います。
また観直したい!