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『燃ゆる女の肖像』感想、考察。ネタバレあり。見つめる目の強さと美しさに引き込まれる珠玉の物語。

2020年12月8日


『燃ゆる女の肖像』を観ました。まるで絵画のような美しさと切ないながらも力強い恋愛映画でした!
2020年のベスト映画入り決定。

評価86点  
 〔2020.12.8投稿〕

 

『燃ゆる女の肖像』作品情報

監督・脚本:セリーヌ・シアマ

キャスト:アデル・エネル、ノエミ・メルラン、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ、

2019年カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にて脚本賞とクィアパルム賞をダブル受賞したフランス映画です。
2020年最優秀外国語映画賞にノミネートもされていました。また、セザール賞9部門ノミネート、ナショナル・ボート・オブ・レビュー賞の外国映画トップ5に選出されるなど世界各国の映画祭で高評価を得ています。

監督のセリーヌ・シアマは長編デビュー作『水の中のつぼみ』でひろく名を知らしめた女性監督です。本作のエロイーズ役であるアデル・エネルはその作品以来11年ぶりのシアマ監督作品への出演となっています。

『燃ゆる女の肖像』あらすじ。ネタバレなし

舞台は18世紀フランス。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は貴婦人から娘の結婚用に肖像画の依頼を受けます。姉を亡くしふさぎ込んでいたエロイーズ(アデル・エネル)は姉の代わりに母が決めた相手との結婚が決まっていたのでした。
心を閉ざしがちなエロイーズに画家であることを隠して近づいたマリアンヌでしたが仲が深まると次第に罪悪感が芽生えていきます。

『燃ゆる女の肖像』感想、考察。ネタバレあり

惹かれあうふたりの女性の物語、ただそれだけなのになぜこんなにも美しく特別なものに感じるのでしょうか。

衣装や海原、室内の陰影など繊細な色遣いやふたりが佇む構図がまるで絵画のようで、ストーリーはいたってシンプルながらその世界観の完成度が高いです。

女性たちが順番に声を重ねて響かせる賛歌のような歌も不思議なエネルギーに満ちていて、女たちの生命力を感じられるものでした。オーケストラの音楽や、神話のオルフェの引用などクラシックな要因がありつつ物語の芯は「愛」という普遍的なものを描いています。

前半のシーンで平等を求めてたエロイーズでしたが、のちに母親がいない間に使用人と三人でキッチンにいるシーンでは、使用人が刺繍をする横でマリアンヌがお酒を飲み、隣には料理をするエロイーズがいるという横並びの状況がありました。
そのシーンは、階級を取り払った女性同士の自然な空間でとても印象深かったです。

女優ふたりの演技の素晴らしさは言うまでもないですが、特にそれぞれの眼差しの奥深さと強さに魅了されます。
ふたりが想いを通わせるのに重要な役目を果たしたのがその目線や目の演技だったように感じたのです。

目というと、本作のキーになっていた「振り返る」という仕草について。思わず振り返ることで愛を表すマリアンヌと対照的に、オーケストラの演奏を観るエロイーズは全くマリアンヌの方を見ません。

きっと視線の先にはあの頃の楽しかった日々を思い出しマリアンヌへの深い愛情が込められていたのでしょう。マリアンヌがいるかもしれないと気づいていたのに見なかったのは、見つめ合ってしまうと今の家庭を壊してしまう衝動に駆られてしまうように思えたのではないでしょうか。

だけど、あの頃の決断を悔いてはいないし、今も愛しているということを物語る涙と表情だったように感じました。

セリフはないながら表情のみで見せるラストシーンに目頭が熱くなってしまいました。素晴らしいラスト!2020年忘れられない映画となりました。

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