ヒューマンドラマ

『くれなずめ』感想、考察。5人があの日をやり直した意味とは。

2021年5月16日

こんにちは、あゆみです。

自粛期間が続き映画館になかなか行けてなかったのですが、久しぶりにテアトル新宿で『くれなずめ』を観てきました。

久しぶりの映画館に観る前から心踊っていたのですが、映画自体も本当に良かったです!

監督は、松井大悟。松田翔太主演の『アフロ田中』で商業映画デビューしたのち、『バイプレイヤーズ』『君が君で君だ』などを監督しています。

タイトルの『くれなずめ』とは、日が暮れてからも空が暗くなるまでのぼんやりあかるい空の状態をさす「くれなずむ」という言葉からきているそうです。

はっきりと終わってしまうこと、区切りをつけて別れてしまうことが全てじゃないんだというメッセージを感じられる映画だったと思います。

こういう曖昧な心模様や、青春時代の郷愁感は日本映画だからこそ共感しやすいと改めて感じました。

男同士の悪ノリやジョークもあるものの、わたしでもどこか懐かしさを感じるのが不思議。。

なんでこんなしょうもない画で泣いてるんだろう…と思いながらも涙が止まりませんでした。

本作は、あらすじなどもまったく知らない方が楽しめるんじゃないかと思います。

予備知識ゼロでぜひ観に行ってほしい映画です。

もはやキャストもあんまり知らずに見てほしいくらいなので、本作観る予定の人はここから下は鑑賞後にどうぞ…!

※画像は映画.comより引用

映画『くれなずめ』【キャスト

キャスト

役名

成田凌

吉尾

若葉竜也

明石

浜野謙太

ソース

藤原季節

大成

目次立樹

ネジ

高良健吾

欽一

前田敦子

ミキエ

飯豊まりえ

弘美

滝藤賢一

ジュリー(屋台の店主)

近藤芳正

先輩

岩松了

警官

内田理央

小林喜日

後輩

都築拓紀(四千頭身)

後輩

『くれなずめ』ざっくりあらすじ【ネタバレあり】

友人の結婚披露宴で余興を披露するために集まった高校時代の友人6人。

それぞれ結婚して子どもを持っている者、舞台の道に進んでいる者、地元の工場を継いでいる者など様々。

しかし、久しぶりに集まればあの頃のノリで楽しめてしまうもので、余興のリハーサルもそぞろにカラオケボックスに向かった。

ここからネタバレを含みます。鑑賞前の方はご注意ください。

カラオケボックスで盛り上がった後、吉尾が改めて全員に尋ねる。「俺って、5年前に死(んでいる?)…」その言葉をさえぎる5人だった。

披露宴での余興は大スベリ。二次会までの中途半端な時間を持て余した5人は吉尾との思い出を振り返る。

それぞれの思い出を12年前、9年前、6年前と振り返り、そして最後に6人で集まった5年前。

先に帰ってしまった吉尾を見送る5人だった。その時のことを振り返った5人の元に吉尾が不死鳥の姿で現われる。

吉尾は死んでいるんだ、だけどハッキリさせなくてもいいじゃないか、とそれぞれ本当は吉尾の死を受け止め切れていない思いを吐露する。

そして、もう一度あの思い出を塗り替えようと、最後に6人であった日に戻りよしおを見送るのだった。

二次会でウルフルズの曲を赤フン姿で踊る6人。吉尾の死と、すごした思い出と向き合い、哀しみもありながら清々しい表情で踊り切った。

そして、天国の吉尾に別れを告げたのだった。

夕日が沈んでも暗くならない暮れなずんだ空の元、帰路に着くのだった。

『くれなずめ』感想、考察。ネタバレあり

前提設定の面白さ

まず冒頭スポットライトが当たっていない吉尾に、「もう少し右」などと友人らが言ってライトを当てるシーンからはじまります。

余興の準備をする6人に対して、ウェディングプランナーの女性が「5人揃ったら」と言ったのを、友人らが「6人です」と訂正する一幕もあります。

この違和感は、吉尾が死んでいてほかの人には見えていなかったからだと後から腑に落ちるところでした。

そして、彼らが余興の練習を終えてカラオケに言ったときに吉尾が「おれ、5年前に死・・(ほかの5人が遮る)」と言いかけるのです。

場面はそこから12年前、9年前、6年前と現在交互に映し出し、現在普通に吉尾に接していた5人の本音が吐露しはじめる。この作りが本当に良い!

よくあるパターンなら、12年前の仲良くなった経緯や思い出を描いてから死と別れをクライマックスに持ってくるでしょう。

『佐々木、イン、マイ、マイン』がそれに近かったように思います。

ですが、本作では死んだことが分かっていても受け入れている5という設定に面白味があるのです。

クライマックスにかけては吉尾との最後の別れのシーンに近づいていきます。

しかし、このシーンがなによりぶっ飛んでいる!()

不死鳥フェニックスになって現われたよしおに心臓ぶつけるって何。()

しかし、このおふざけ感がいいのです。おそらく、文化祭でやったコントのような感じでしょう。

いつもの6人の空気感のまま、妙にしんみりしすぎないところが良いです。

そして、赤フンでウルフルズの「それが答えだ!」に合わせて踊るというシュールなシーン。

なんで、こんなくだらない画で涙が出るんだろうと思いながら、止まりませんでした…。

コメディとシリアスの絶妙な塩梅にやられました…!

最後に吉尾に会った日をやり直した意味とは

吉尾が死んでからも5人の前に姿を見せていたのは、5人が吉尾の死を受け入れられていなかったからではないでしょうか。未練があったのは、よしおではなく残された5人の方だったのです。

だから最後に6人全員が集まったときに戻って、ちゃんと「さよなら」をしたかったのだと思います。

決して引き止めるわけではなく、もう会えないことを自分に納得させる意味で、あの日をやり直したのだと解釈しました。

本作は、松居監督が主催する劇団ゴジゲンの舞台劇として自身の友人に向けて作った物の映画化だそうです。

監督自身が、きちんとさよならを言いたかったという気持ちと、やり直せない時間を映画の中で取り戻そうとしたんじゃないでしょうか。

言ってしまえば、とても私的な物語。だけど、だからこそキャラクター全員がリアルで感情移入しやすいのです。

俳優陣のすばらしさも相まって、まるで本当の思い出を共有した同級生たちを見ているよう

よしおとのエピソードをほかの5人分振り返るわけですが、決して冗長に感じません。全員のキャラクターが生き生きとしていました。

印象的だったシーン

大成役を演じた藤原季節が、三回忌に行ったときのシーンが印象に残っています。

「お菓子貰いに来たわけじゃないのに、お菓子貰いに来たみたいになっちゃって…」と、どうしようもなく切ない表情で話す様子に胸がぎゅっとなりました。

帰ろうとするけれど、ネジ(目次立樹)と同じ感情を共有していたい、吉尾へのやり場のない思いを共有できる友人と少しでも話していたい気持ちが現われていたように感じます。

今泉力哉監督のhisでの演技が印象的だった藤原季節。今回は存在感をさらに増したように感じました。

現在公開中の『街の上で』に出演中の若葉竜也。本作の明石は、全く違うキャラクターでしたが、しっくりハマっていました。トイレでのあのしょうもない会話のシーンが印象的。

結局思い出すのってああいうしょうもない、なにげない瞬間の発言だったりするよなとしみじみ感じさせます。

ミキエが「生きてても死んでても変わらないんだからね!」と叫ぶシーンも印象的。

強烈なこの言葉、生きてても死んでても変わらず心にいるし思い出は変わらない。という事が込められているとも捉えられて、なんだかジーンと余韻が残りました。

まとめ

全体的にはすごくゆる~くて(笑)、それなのに心の一番もろい部分をくすぐられるような。

直球なようで、ひとつひとつ細かな仕掛けが効いた素晴らしい映画だと思います。

笑うことは簡単だけど、笑わせることは本当に難しい。笑わせようとしているのが伝わることほど面白くないことはないからです。

喜劇に誇りを持っている松居監督の情熱をしっかりと感じました!

また観たい映画でした。おすすめ!

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