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『ミナリ』感想、考察。あらすじネタバレ。瑞々しい緑に深呼吸したくなる映画。家族の絆が未来を照らす物語でおすすめ!

『ミナリ』を観ました。
瑞々しい緑に深呼吸したくなる映画!
移民家族の夢と現実に迫りながらも、希望と未来を感じられる映画でした。
評価88 点   

※画像は映画.COMより引用

『ミナリ』作品情報

監督:リー・アイザック・チョン

キャスト:スティーブ・ユアン、ハン・イェリ、アラン・キム、ノエル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョン、ウィル・バットン、スコット・ヘイズ

『ミナリ』ざっくりあらすじ【ネタバレあり】

1980年代アメリカ。農業に夢を抱いたジェイコブは妻モニカと娘のアン、心臓の弱い息子デビッドを連れてアーカンソー州へと移住してきた。

夫婦そろって孵卵場で稼ぎながら、ジェイコブは農業に勤しむがなかなか作物が育たず、行き詰っていた。

トレーラーハウスでの暮らしにデビッドがすっかり慣れたころ、モニカたっての希望で祖母が同居することになる。

料理もせず、花札や格闘技をラフな格好で観戦する祖母の姿に「おばあちゃんらしくない」と毛嫌いしていたデビッド。

あっけらかんとし、なんでもハッキリ口にする祖母は、デビッドのいたずらも気にせずアンとデビットを可愛がっていた。
ふたりを連れて林の奥に出かけた祖母。蛇がでるから行ってはいけないと言われていた林の先には水の澄んだ場所があり、そこだとセリ(ミナリ)がよく育ちそうだから植えようときめた祖母なのだった。

ジェイコブの努力あって作物は収穫できたものの急遽取引先に断られてしまって、生活はさらに困窮していく。ジェイコブとアンは度々喧嘩をしていた。それでもジェイコブは農業の夢をあきらめきれないのだった。

留守番中にケガをしたデビッドを祖母が手当してあげたことからふたりは次第に仲良くなっていった。一緒に格闘技を観戦したり、花札をする日々。
そして林の奥に植えたミナリのそばまで2人で行くようになっていた。

そんなある日、心臓が弱いせいで「死にたくない」と怖がるデビッドを抱きしめて眠った祖母の様子が翌日から変わってしまった。
脳卒中によって思うように話せず、動作もゆっくりになった祖母を心配するアンとデビッド。

そんな祖母の看病のためにも引っ越すことを決めたモニカ。ジェイコブも一緒に来るよう誘うが夢を諦めきれないジェイコブは残ることを決める。

デビッドの診察の為に車で5時間ほどの病院へやってきた一家。診察の結果、奇跡的に心臓の穴がふさがりつつあるということが分かった。今の生活を変えないように言われたのだった。

診察の後、ジェイコブは育てた作物を仕入れてくれる店をようやく見つけ、来週から出荷することが決まる。
喜ぶジェイコブだったが、モニカはもう一緒にいるのは限界だと告げたのだった。

夜になって帰宅してみると、作物小屋が火に包まれていた。祖母は体を十分に動かせないながら掃除をし外でゴミを燃やした結果、火が不運にも小屋に移ってしまったのだった。

燃え盛る火を前になすすべなく立ち尽くす一家。祖母は絶望を感じてひとりで家と反対方向へふらふらと歩き出した。その祖母を走って追いかけるデビッドとアン。
「一緒に帰ろう」とデビッドに説得されて祖母は家に向かって歩き出したのだった。

収穫した作物は全て失ったが、ジェイコブはデビッドと一緒に林の中のミナリ(セリ)を収穫しにやってきた。祖母のおかげだと話ながら生い茂るミナリを収穫するのだった。

『ミナリ』感想、考察【ネタバレなし】

こどもの小さな体から発せられるエネルギーと、老いゆく命とのふれあいが未来をつくるような希望と生命力を感じられる映画でした。

韓国系移民の一家がアメリカの見知らぬ田舎の土地で農業をはじめたものの、そこにかける想いが父親と母親でまったく違いました。しかし、どちらも家族を思っているのは一緒だったのです。

スティーヴン・ユアンとハン・イェリの夫婦の口論シーンは切実で胸がつまりました。しかし、髪を洗うシーンや会話の端々に互いを思っているのは明らかで、近すぎて苦しいすれ違いを見事に表現した2人の演技はすばらしかったです。

また、移民としての差別や夫婦間のすれ違い、老化による疾患など現実的な問題を多く描きながらも決して悲観的にならないのは、子どもの視点が添えられているからでしょう。

「廃棄」という意味すら知らなかった純朴な少年が、祖母と絆を結びアメリカ人との交流などの中で大きく成長していきます。彼の無邪気さと、強さに一家は救われるのです。

瑞々しい緑が風になびく様子が爽やかで、深呼吸したくなるような映画でした。

※以下ネタバレありご注意を。

子どもの視点

教会での子ども同士のやりとりがとても印象的でした。
「なぜ顔が平たいの?」という問いや、韓国語を教えてと言って少女が差別にあたるフレーズを話すシーンでは、全く悪意がありません

単なる疑問をストレートにぶつけた質問に答えているだけなのです。その後アメリカ人の少年とデビッドは仲良くなります。一緒になって仲良く歯を磨くシーンはとても微笑ましい…。
差別や偏見は大人が故意に作り出したものなのだと、あらためて感じさせられました。

また、夫婦の出口のない口論を紙ヒコーキで仲裁するこどもたちの可愛らしさも印象的!

そして、祖母と心を通わせていくデビッドの変化は彼にとって大きな成長だったと思います。しきりに「おばあちゃんらしくない」と言っていたのは、彼のおばあちゃん像と祖母がかけ離れていたからです。
クッキーも作れないし男物のパンツを履いている祖母に対しておばあちゃんと認めたくなかったデビッドでしたが、ケガを手当てしてもらってから心を開きはじめます。

こうあるべきだという固定概念より、そのままを受け止めて祖母らしさを愛しはじめたように感じました。

そして、死を恐れていたデビッドが祖母を引き止めるために、自分の弱い心臓を顧みず走り出すシーンは特に胸をうちます…!

誰かために一生懸命になること、自分で考えて行動できるようになったデビッドの成長に目頭が熱くなりました…。

いつも家族の様子を見守っているしっかりもののお姉ちゃんも含め、この映画では一家全員が主人公でした。

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