
死が迫る悲しいストーリーながら、全体を通してポップで可愛い世界観でした。
若者ふたりの青春物語だけではなく、家族の物語だというのがとても心に沁みた…。
評価84点
もくじ
『ベイビーティース』作品情報
監督:シャノン・マーフィ
キャスト:エリザ・スカンレン、トビー・ウォレス、エミリー・バークレイ、ユージーン・ギルフェッダー、エシー・デイヴィス、ベン・メンデルスゾーン
監督のシャノン・マーフィはオーストラリア出身の女性で、本作が長編映画初監督です。
主人公のミラ役はエリザ・スカンレン。グレタ・ガーウィグ監督『ストーリーオブマイライフ』や、Netflix映画『悪魔はいつもそこに』に出演しています。
モーゼス役のトビー・ウォレスは本作で2019年ベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。
過去には新宿シネマカリテの企画、カリコレ2017の上映作品『シークレット・オブ・ハロウィン』に出演しています。
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『ベイビー・ティース』ざっくりあらすじ【ネタバレあり】
重度の病を抱えるミラ(エリザ・スカンレン)は、精神科医の父ヘンリー(ベン・メンデルゾーン)と心配性の母親のアナ(エシー・デイビス)のふたりに愛されて暮らしていた。
ミラは学校で仲の良い友人がおらず、まわりの子となじめないでいたが、偶然モーゼス(トビー・ウォレス)に出会う。
不良っぽいものの悪意がなく優しさが感じられるモーゼスに惹かれるミラ。
家に彼を招いたり、外で遊ぶようになったがアナとヘンリーは気が気ではなかった。
ある日、薬を盗みにミラの家に忍び込んだモーゼス。アナはミラに見つかる前に逃がそうとするが気づかれてしまう。
モーゼスは母親から勘当されていて、薬の売人をやってその日暮らしをしているのだった。
もうミラに合わないようモーゼスに詰めるアナだったが、ミラは反発して夜に家を抜け出しモーゼスと夜遊びを楽しんだ。
お酒を大量に飲み、クラブで踊ったあととある建物の屋上で野宿をしたふたり。
取引をしにモーゼスはミラを置いて消えてしまったのだった。
翌朝、感染症などを起こして病院に入院することになったミラ。
どんどん弱っていくミラに彼女を元気づけるためにモーゼスに会いに行くヘンリー。
屋上に置き去りにするつもりはなく、もどったら居なかったのだと説明するモーゼス。彼も次第にミラのことをかけがえない存在だと感じるようになっていたのだった。
ミラのために、退院したらモーゼスも一緒に住むよう提案するヘンリー。アナも渋々だが、ミラの幸せや希望を優先して一緒に暮らすのを見守ることにしたのだった。
一緒に暮らし始めたモーゼス。ミラは毎日幸せを感じていた。モーゼスが薬断ちをするのをサポートすることもあった。
しかし、ミラは自分の体が弱っていっていることを自覚していたのだった。
彼女の誕生日パーティ当日近所の人や、バイオリンの先生、モーゼスの弟を呼んで楽しい時間をすごしていた。
すると近所に住む妊婦の女性が産気づきモーゼスとミラ以外は病院に行ってしまった。
部屋で2人になってから、ミラは枕で顔を抑えて窒息死させてほしいとモーゼスに頼む。
自分にはできないと拒否するモーゼスだったが、あまりに懇願するミラに押し切られて枕をミラの顔に押し付けるモーゼス。
ミラが暴れて結局それは最後まで果たされなかったのだった。互いの気持ちを確かめ合うようにベッドで抱き合うモーゼスとミラ。
翌朝、安らかに眠ったままミラは息を引き取った。アナはお別れができなかったとモーゼスを責め、そんな彼女をモーゼスは受け止めて抱きしめるのだった。
ヘンリーは愛おしむようにミラを撫でて別れのときを噛みしめるのだった。
『ベイビー・ティース』感想、考察【ネタバレあり】
青春の物語でありつつ、家族の絆の物語でした。悲しい話のはずなのに、鑑賞後に幸せな気持ちが残る不思議な感覚を味わって、本当に観て良かったです...!
心の弱さをそれぞれ見せるキャラクターたち
何といってもミラを演じたエリザ・スカンレンの、そのままの感情がまるごと溢れ出したような演技がすばらしかった!頭は実際に剃り上げたんだとか。
そして、ミラ以外のキャラクターも全員魅力的でした。
弱さや不安定さというのが現われていたのが印象的で、ヒステリックになりがちな母親のアナにはピアノを弾けなくなったエピソードがあって、母親の人生が垣間見えることでミラの命は彼女だけのものではないのだと感じさせられました。
そして、父親のヘンリーが近所の妊婦にキスしてしまうシーンには内心「あっやっちゃった」と思ったけれど、それでもやっぱり紳士なヘンリーの対応にほっとしました。泥沼展開にならなくてよかった…。
不安を抱えきれなくなったヘンリーの本能的な部分が出た良いシーンだと思いました。
まず映画の冒頭で、ヘンリーの職場でアナのカウンセリング中にふたりがセックスを始めるシーンがあったのが良い前提になっていたと思います。
夫婦の仲の良さが前提としてあるからこそ、ミラのことを心配するあまり夫婦関係がピりついたとしても支え合えるのだと感じさせてくれました。
そして、モーゼスのキャラクターがこの映画の大きなポイントだといえます。その危うさと自由さにミラが惚れてしまうのも頷けるほど、登場してすぐその魅力に引き込まれました。
母親に受け入れてもらえない彼の寂しさや純粋さがいたるところで垣間見え、弟に母親の話をするセリフからは隠しきれない母への愛情が感じられます。
薬断ちもしたし、また関係を修復できる日が来るんじゃないかな、なんて未来のことも想像してしまうセリフでした。
色合いの美しさが表現したミラの青春
重い病を抱えるミラの行く末を描いた悲しい物語でありながら、観終わって心に残ったのは幸せな感情でした。
その理由のひとつとしていえるのは、全体を通してパステルトーンやカラフルな色遣いがとても美しかったからというのが言えます。
照明の度合や海やプールの色のトーンが淡く優しい時もあれば、ビビットで情熱的な雰囲気を漂わせるシーンもありました。
クラブで、ミラの顔にプロジェクターの光彩が映るシーンは彼女の脳内を映し出しているようで、ひと時の青春を謳歌するミラの喜びが伝わってきます。
ただひとつだけいうなら、エンドロール直前のビーチのシーンがあまりにセンチメンタルすぎたように感じました…。
ミラとモーゼスがもみ合い、乳歯(baby teeth)が抜けて映画冒頭と繋がります。そこから、木々に集まる鳥たちを見上げるミラが清々しい表情を見せます。そして、「最高の朝」というタイトルでミラが死んでしまう。という一連の流れがこれ以上ないくらいに素晴らしかったからこそ、ビーチのシーンは少しくどいように感じたからです。。
とはいえ、鑑賞後に思い出すと胸に愛しさがこみ上げてくる良作だったと思います!おすすめです。