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『あのこは貴族』感想、考察。原作との違いと共通点を解説。東京で生きることを描いた良作。

映画『あのこは貴族』を観ました。
東京で働く全女性に観てほしい。いや男性にも観てほしい良作!
原作との違いも解説していきます。
評価90点   

『あのこは貴族』作品情報

監督:岨出由貴子

原作:「あの子は貴族」山内マリコ著

キャスト:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静香、山下リオ、佐戸井けん太、篠原ゆき子、石橋けい、山中崇、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀紛蝶

『あのこは貴族』あらすじ、解説

山内マリコの同名小説を原作に、同じ都会に暮らしながら全く異なる生き方をする2人の女性が自分の人生を切り開こうとする姿を描いた人間ドラマ。都会に生まれ、箱入り娘として育てられた20代後半の華子。「結婚=幸せ」と信じて疑わない彼女は、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。あらゆる手段でお相手探しに奔走し、ハンサムで家柄も良い弁護士・幸一郎との結婚が決まるが……。一方、富山から上京し東京で働く美紀は、恋人もおらず仕事にやりがいもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。そんな2人の人生が交錯したことで、それぞれに思いも寄らない世界がひらけていく。「愛の渦」の門脇麦が箱入り娘の華子、「ノルウェイの森」の水原希子が自力で都会を生き抜く美紀を演じる。監督は「グッド・ストライプス」の岨手由貴子。-映画.COMより

『あのこは貴族』感想、考察

原作がとてもおもしろかったので、正直観るのが少し不安でした。あんなにも深い内容を2時間にまとめられるわけがないと…。それと、変に内容が変わっていたら嫌だなと...。

でも観てみたらそんな心配吹っ飛びました!映像だからこそできる視覚的表現が活きていたし、原作にあったとある展開がなくなっていたものの、それが返って映画なりの良さになっていたと感じました。

原作との違いと映画版の良かった点【ネタバレあり】

原作と比較するとかなり前向きにというか、爽やかに締めくくったように感じました。

というのも、原作では華子と幸一郎の結婚披露宴に美紀が登場するくだりがあります。
まさか華子と美紀が繋がっているとは知らない幸一郎は、華子の友人席に美紀を見つけてめちゃくちゃ動揺します。女としては、「ざまぁ…」という感じになるこの面白いくだりが映画ではばっさりとカットされていました。

でも、このシーンがあると男女のドロッとした感じが出てしまうし、映画では友情や自立だったり支え合うことの大切さをメインテーマにしていたので、そのシーンがなくても全く違和感はありませんでした。
物足りないという感じもなく、これはこれで大満足といった感想です!

映画版の良かった点としては、女友達の存在により焦点が当たっていたところがひとつありました。
華子と美紀の人生を導く存在としてキーパーソンとなるふたりです。
華子の友人である逸子を演じた石橋静河、美紀の友人を演じたのが山下リオです。

華子と美紀を引き合わせた逸子の、一本筋が通った生き方と主張はとても魅力的!
婚約者(華子)と浮気相手(美紀)というふたりを引き合わせておいて、ケンカしてほしいわけじゃなく華子に現実を見てほしかったと話す逸子。女同士をいがみ合わせようとする社会の風潮を一蹴するセリフには心がスッとします。

一方で美紀の友人の里英は、同じ田舎出身で東京の大学に入学していて美紀にとっては昔の自分を知っている存在でした。
東京にしがみついている自分に疑問を持ちはじめた美紀にとって、本音を話しやすい相手です。ふたりの会話であった「東京の養分だよね」というセリフが強烈に印象的です…。うん、たしかに搾取されまくり。

田舎から出てきた者として、東京の上流階級との埋まらないギャップがあるのは紛れもない現実で、「気にいってない食器ほど生き残る」感覚がきっとわかるだろう里英の存在が、どれほど支えになったかというのが伝わってきました。

1日の終わりにその日あったことや感じたことを話せる相手がいることが、自分を支える力になるのだとしみじみ感じさせてくれます。

もうひとつ、映画版の良かった点は視覚的に華子と美紀の違いが明確に表現されていたところです。華子が座敷に上がって幸一郎の親族に挨拶する所作や、美紀が実家でシャッター街を目にするシーンなどひと目でその光景が表すことが伝わります。

田舎では当たり前に女は結婚して家庭にはいるものだし、料理はできなきゃいけないもの。というのが非常にリアル。

地方出身で、社会人になって上京した私としては分かりすぎるくらい分かりました。心の中で何度「そうそう、そうだよね。」と頷いたか...。これは原作でも同じでした。だから観てて、読んでておもしろい!

さらに言うと、上流階級というほどではないけれど、親や結婚相手に恵まれて基本的に何不自由なく生きてきた私にとっては、華子の「東京の人」という感覚もわかるような気がするんです。

原作も映画もまさに「東京で生きること」をテーマにした良作だと言えます。

印象的なふたつの自転車のシーン

同じ感覚で笑い合える相手の存在がいかに尊いのか、それを象徴的に描いていたのは自転車のシーンでした。

ひとつめは、若いギャル2人が笑い合いながら自転車を2人乗りして登ろうとするシーンです。華子の視線を感じて手をふるギャルと、振り返す華子。短いながらほのぼのとしたとてもいいシーンでした。

ふたつめは、美紀と里英の「ニケツ」シーンです。風にあたりながら楽しそうに話す2人は戦友のような関係でもあり、良き理解者がいる幸せが伝わってくる良いシーンでした。
たしかに東京では「ニケツ」て言う人も、してる人も見かけない気がする。

東京には住みわけがあって、同じ階級にいる人同士でないと分かり合えないという現実を描きつつも、人と人とは支え合って生きているという希望を感じる映画でした。

東京で働く全女性。いや男性にも観てほしい!おすすめの一作です。

 

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