ヒューマンドラマ

『ノマドランド』感想、考察。ノマドを選んだ主人公の強さと希望。【実際のノマドたちとの裏話】

『ノマドランド』を観ました。
自然の雄大な映像美に圧倒され、ノマドの暮らしの中から希望を見出す主人公に心打たれる映画でした。
とても心地よい余韻にいつまでも浸っていたかった…!

評価90点   


※画像は映画ドットコムより引用。

『ノマドランド』作品情報

監督:クロエ・ジャオ

キャスト:フランシス・マクド―マンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、ボブ・ウェルズ

原作:「ノマド 漂流する高齢労働者たち」ジェシカ・ブルーダー著

本作は、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品です。ゴールデングローブ賞では、作品賞とクロエ・ジャオが最優秀監督賞を受賞し、脚本賞にノミネート、フランシス・マクド―マンドが主演女優賞にノミネートされていました。

また、アカデミー賞でも作品賞、脚色賞、監督賞、主演女優賞、撮影賞、編集賞にノミネートされています。
撮影賞ノミネートのジョシュア・ジェームズ・リチャードは、フランシス・リー監督の『ゴッズ・オウン・カントリー』(2019)での映像が素晴らしかっただけに期待大!

作品賞は本作か「ミナリ」のどちらかではないかとの声が多いですが、個人的には『ノマドランド』を推したい!と思います。

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『ノマドランド』あらすじ

ネバダ州で暮らしていたファ―ンはリーマンショックと同時に夫と住む場所も失ってしまった。年季の入ったキャンピングカーで季節労働者としての生活を始める。

元教師のファ―ンは周囲の心配を気にせず、Amazonの工場やビーツの収穫の仕事などで報酬を得ながら暮らしていた。

車両生活の先々でノマドの人々との出会いを重ね、彼女らの逞しさや優しさ、生きることへの向き合い方に触れる中で彼女の心に変化が生まれはじめる。

『ノマドランド』感想、考察

ほぼセリフがない中で最低限の会話シーンとフランシス・マクド―マンドの繊細な演技に魅了される作品でした。

ノマドの生活をする中で自ら人生の選択をし続けるファーン。夫を亡くし、やむを得ず車両生活になったファ―ンですが、自ら選んだその生活の中で心の傷に改めて向き合い、新たなスタートをきった彼女の姿は胸を打ちます。

人生の後半、大切なパートナーや、家や友人などのコミュニティを失くして全てがリセットされたとき自分自身に向き合うしかない状況においてどうやって生きる喜びを見出していくのかということを考えさせられます。

ファ―ンに影響を与えた人々の印象的な言葉

作中で印象的だったのは、ノマド生活の指南をしてくれたボブのセリフでした。
「この生活の良いところはお別れのさよならを言わないところ。また会う日まで、と言って別れてからまた再会できる。そうすることで一度別れてしまった人、つまり死んでしまった人とも会えるような気がするから」という内容のセリフでした。

その言葉を聞いたファ―ンは亡き夫のことを思い返します。ハウスレスの生活をしながらも夫と共にすごしたその土地から出ていけないでいた彼女がようやくその悲しみから解放されたような美しいシーンだったと思います。

がむしゃらに前向きにとはいかないけれど、少しずつ時間をかけて喪失感から解放されていく彼女の姿からは希望を感じられます。

そして、このノマドの生き方をリアリティたっぷりに描いているのはもちろんのこと、それを見守る様々な人の率直な反応も見どころだと言えます。

スーパーで会った昔の教え子とその母親はファ―ンのことを家を失って心配な存在として捉えています。しかし、ファ―ンは「ホームレスではなくハウスレス」だと言い、その生き方を選んでいるという強い意志を感じられます。

また、ファ―ンの姉とその夫との会話の中で姉はノマドライフを否定しませんでした。理解を示したうえで、一緒に暮らさないかという提案をしたのです。正直で勇敢な生き方を応援すると伝えるシーンはとても感動的です。

帰る場所がなく放浪することと、帰る場所や拠り所となる人が居る上で放浪することとは大きな違いがあるのでないでしょうか。大切に想ってくれている姉のことや、好意を持ってくれている男性がいる上で自分の行き先を見据えて前進することの勇敢さに胸が震えました。

実際の遊牧民たちが演じるリアリティと裏話

クロエ・ジャオ監督の前作『ザ・ライダー』では主演含めキャストは本人役を演じていました。そして、本作ではフランシス・マクド―マンドとデヴィッド・ストラザーン以外、全員実際の遊牧民だそうです。

本人たちが登場することで自然と説得力が増すのは当然かもしれません。しかし本作で凄いのは彼らの生活に溶け込んでいたフランシス・マクド―マンドの演技だといえます。

彼女は実際に撮影中4~5ヵ月間ノマドとしてバンで生活し、Amazonやビーツの収穫の仕事も体験したのだとか。共演者のノマドのほとんどの人々は彼女が女優だということに気づいていなかったそうです。

ノマドライフの指南者ボブは、ファ―ンが夫を亡くしたことを打ち明けたシーンのあと彼女を慰めたそうで、そこで初めて彼女から実際の夫は生きていることを明かされました。そして、実際の夫はジョエル・コーエンで、彼女が女優であることを知ったボブは驚いたそうです。

フランシス・マクド―マンドがノマドライフに溶け込むことで、周囲のノマドの人々の自然な表情や空気を引き出せたのではないでしょうか。

2021年4月26日に第93回アカデミー賞が開催されその結果が明らかになりますが、賞獲得あるなしに関わらず、様々な人の心に響く作品だと思います。

 

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