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『アップル(APPLES)』感想考察、ネタバレなし。東京国際映画祭トークセッション内容まとめ



2020年東京国際映画祭にて『アップル(APPLES)』を観ました。
静かながら主人公の男が少しづつ変化していく姿に引き込まれました。

帰り道はリンゴを買って帰宅。

評価点76点  
 〔2020.11.12投稿〕
 

『アップル(APPLES)』作品情報

監督:クリストス・ニク

キャスト:アリス・セルヴェタリス、ソフィア・ゲオルゴヴァシリ、
アナ・カレジドゥ

『アップル(APPLES)』トークセッション内容のまとめ

『アップル(APPLES)』は、ギリシャ、ポーランド、スロベニア合作映画で、クリストス・ニク監督による長編初作品です。

ベニス映画祭で本作を観て惚れ込んだケイト・ブランシェットがプロデューサーとして関わることをオファーしたという経緯のある作品です。

【監督の父親との思い出】
監督が父親を亡くした経験から着想を得て、人間の記憶の仕組みについて踏み込んだ作品となっています。
父親が1日にりんごを7~8個食べていたのが印象深く、映画に取り入れたいと以前からかんがえていました。

【作品の画角、色調、世界観】
ポラロイドカメラやオープンリールラジオの登場からレトロな世界観が漂います。
テクノロジーが発達した現代において、現代機器は便利な一方で記憶を失いやすくなってしまうと感じた監督が、あえてアナログの物だけに囲まれた世界を作っています。

画角をスタンダードにしたのは、スタンダードサイズでこういった作品はあまりないのでやってみたいという意図があったからです。また、この画角だとより人物に近づいているような画が撮ることができ、結果としてキャラクターを鮮明に捉えることができました。
冒頭はカメラを離していて、終盤に向かって人物に寄っていくことでキャラクターの内面にも迫って描いています。
またポラロイドのカラーパレットを用い、そのサイズ感もリンクさせています。

【映画に込めたメッセージ】
冒頭のシーンについては、監督自身謎を感じさせるものにしたくて「何かが欠けた空間、不思議な音」を演出しています。

友人との共同脚本で製作していますが、ストーリーははじめから監督自身で冒頭からラストシーンまで完成されており、それを基に脚本が作り上げられました。

ソーシャルメディア一辺倒になり今を生きられていない人が多いように感じられる現代において、過去の記憶を選別することはできないですが、つらい記憶に関しても自身で乗り越えていくべきだというメッセージがこめられています。

【参考にした映画や監督について】
ユーモアとシリアスのバランスの観点から、『トゥルーマンショー』やアキ・カウリスマキ監督の『過去のない男』に影響を受けています。また、ロイ・アンダーソン、チャーリー・カウフマン、レオス・カラックス、スパイク・リー監督らにも影響を受けています。

劇中で映画を観るシーンで『テキサスチェーンソー』のフィルム版を観ていますが、「絶対忘れられない映画」というキャッチコピーが付いていたので映画『ダンボ』も候補になっていました。

【主演俳優アリス・セルヴェタリスウスについて】
元ダンサーで俳優としてはギリシャで有名な俳優のひとりです。非常に表現力豊かな俳優なのを監督が知っており、オファーに至りました。
ヨルゴス・ランティモス監督の作品に2本出演しています。
監督は彼に本作の役作りとして『エターナルサンシャイン』と『トゥルーマンショー』を見比べて参考にしてほしいと伝えていました。

【りんごについて】
りんごの食べ方については、ポスターにもなっている剥き方と同じようになるよう作中でもこだわり、りんごを食べる動作が主人公の男にとっていかに日常の一部であるかと感じさせるように演技するようアリスは指示を受けてます。

「APPLES」というのは自分の記憶をコンピューター内に保存してしまって自分で管理できていないのではないかという「apple」社への皮肉の意味も込めています。

『アップル(APPLES)』あらすじ

記憶喪失者が多発し、国によって患者への支援策「新しい自分」プログラムが行われるようになった社会が舞台。
バスに乗って目覚めた時には記憶を失っていた男は、支援プログラムに参加することにします。
自転車に乗る。
あえて車をぶつける。
バーでゆきずりの肉体関係を結ぶ。
死がまじかに迫っている人に寄り添い、死後に親族と話をする。
などミッションをクリアしていく中で、本当の自分とは何者なのか摸索し続けます。

『アップル(APPLES)』感想、考察。

主人公の男が向き合いたくない過去と忘れたい記憶に苦しむ姿が静かに描かれています。

寂しさと悲しさを常に漂わせる男が、少しづつ希望を見出して表情に強さを取り戻していく様子が秀逸でした。

決して派手さはないものの確かな伏線がすこしずつ男の過去へと迫ります。

だれもが人生においてつらい経験から目を背けず生きなければならないこの世で、前向きに生きることの難しさとそれでも苦難を乗り越える人の強さを感じられる作品です。

ミニシアター系の映画でしたが、来年あたり劇場公開はある…かなぁ??

※画像はIMDbより引用

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