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『わたしたち』感想、考察ネタバレあり。リアルすぎてチクチクするひとりぼっち感を見事に描いた良作!

2020年10月12日

少女の成長を繊細に描き切った韓国映画の傑作。
え、なんでわたしだけ?っていう空気感が痛いほど伝わってくる。

この生々しさは本当に苦しい。途中、直視できないくらいしんどかった…。

評価80点  
 〔2020.10.12投稿〕

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『わたしたち』作品情報

監督:ユン・ガウン

製作:イ・チャンドン

キャスト:チェ・スイン、ソン・へイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン、チャン・ヘジン

イ・チャンドンといえば『ペパーミントキャンディ』(1999)ではひとりの男の壮絶な20年間を描き、長編二作目の映画にして大鐘賞映画祭(韓国のアカデミー賞)にて、作品賞など主要部門多数受賞。障がいを抱える男女の恋愛映画『オアシス』(2002)ではベネチア国際映画祭の監督賞を受賞している実力者です。

そのイ・チャンドンが才能を見出したユン・ガウンは1982年生まれの女性監督。

短編映画『Guest』(2011)でフランスのクレルモン=フェラン国際短編映画祭で大賞受賞。『Sprout』(2013)でベルリン国際映画祭クリスタル・ベア賞(4才以上の子ども、14歳以上の青少年を対象とした映画部門)など、ほか映画賞を受賞しています。

本作『わたしたち』は監督の経験をもとに作られたシナリオを、イ・チャンドンと練り上げて製作しています。

キャストは100名以上の中からオーディションで選ばれた子役が務めていて、撮影の3か月前からリハーサルを行い役作りをしたそうです。

精神ダメージを受けるシーンも多くあるので、心理カウンセラーを呼んでケアをしつつ行ったとか。すごい協力体制…!

台本はほぼなく、即興のリアルな反応を2台のカメラで追ったそうで、あの緊張感となまなましさのワケに納得。と同時に綺麗に納めたカメラワークも本当に素晴らしい…!

『わたしたち』感想、考察。ネタバレあり

本作はいじめというテーマの裏に「人は大人であれ子どもであれ、弱さを抱えて生きている」ということを描いた映画でした。

主人公が直面した小さな嫌がらせから発展したいじめ、父親のお酒への依存。そのどちらも自分自身で対応しきれない問題にぶつかった人が起こしてしまう行動といえるかもしれません。

クラスメイトから父親に関して冷やかしを受けた主人公は苛立っていましたが、祖母の死に打ちひしがれる父の背中を見て「人間の弱さ」を知ります。

だれにでもある弱さ。それは、なにかでごまかさないと、強がらないとやってられないものなのかもしれないと幼心に学んだ主人公。
そして、弟の純粋な発言「殴って殴り返して、いつ遊ぶの?」という発言にはっと考えさせられます。

子どもの純粋で柔軟な発想ってときにめちゃくちゃパワーを秘めていることがあるなぁ。

本作は、94分間で裏切り、嫉妬、友情、成長と見事に描き切り、無駄が一切なく強いメッセージが詰まった作品だと思います。

中でもネイルの色落ちが時の経過を表現しているのがとても見事です。

一本の爪に残ったわずかな朱色に、これが消えたらもう時を逃してしまうと感じたかのように思い立つ主人公は印象的でした。

これまではクラスメイトたちにどんな嫌なことを言われても決して言い返なかった彼女が思い切って発言するシーンはとてもドキドキするし、絶妙な距離感と目線がすべてを物語っていたといえるでしょう。

大人になっても、自分から歩み寄ることって実は一番むずかしい。それを勇気をもってやることができた彼女の成長に心がほぐされるような感覚が残ります。
  
ここまでリアルに描けるのは本当にすごいし、ふたりの少女は演じてないみたいに自然で、それがまたリアルで観ていてつらかったですが、最後まで見てほんとうに良かったと思える良作でした。

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