
Netflixで映画『ヘイター』を観ました。
まるで『ジョーカー』観た時のような恐ろしさと不思議な快感。
傑作!おすすめです。
評価90点

もくじ
『ヘイター』作品情報
監督:ヤン・コマサ
キャスト:マチェイ・ムシャウォウスキー、アガタ・クレシャ、ダヌタ・ステンカ
2020年に配信開始しされたポーランド映画です。監督は『聖なる犯罪者』のヤン・コマサです。
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主役のマチェイ・ムシャウォウスキーのInstagramはこちら。彼の演技が圧巻でした!
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『ヘイター』ざっくりあらすじ
法学部の学生であるトメクは、論文の一部に文献の盗用があるとして、学部長によって除籍処分を言い渡されてしまった。奨学金を援助してくれていたクラジュキ家の元に訪れ、昔から恋心を寄せていたその家庭の娘ガービと再会する。
はじめはガービに相手にされていなかったトメクだったが、彼女の友人経由で同じパーティに参加して距離を縮めていく。
そのパーティで醜態を見せたガービはお詫びにトメクを家族のパーティに招待する。そこで2人でドラッグをしているのを父親に見つかってしまった。
その日を境にガービに避けられるようになり、除籍の件も夫妻に知られて信頼を失ってしまった。
そんな時、ネット上で中傷投稿や印象操作をすることでターゲットを攻撃する会社に就職したトメクは、仕事にのめり込んでいく。
市長候補のルドニツキの評判を落とす仕事を受けたトメクは、ルドニツキとクラジュキ夫妻の親交が深いことを知りますます仕事に打ち込んでいった。
クラジュキ夫妻に取り入り、ルドニツキのスタッフとして働きはじめたトメク。ルドニツキと飲みに行き、クスリを飲ませゲイクラブに行った所を世間に公表したのだった。
それでもルドニツキの勢力は収まらず、上司からさらなる攻撃を頼まれたトメク。
移民の受け入れを反対する若者グループの中からグゼックに目をつけ、彼にルドニツキを襲撃するよう仕向けることにする。オンラインゲーム上でやりとりし、銃器の受け渡しも行っていた。
討論会をひらき、そこにやってきたグゼックはルドニツキや参加者たちを襲撃し始めた。
(3.ラストシーン解説へ続く)
『ヘイター』感想、考察【ネタバレあり】
ひとりの青年が現代社会が抱える闇へ堕ちていく姿を描いた社会派ヒューマンドラマです。
格差社会やSNSの影響力が大きい現代で、誰もが陥りうる落とし穴を見たような気持ちになりました。
ぞわぞわが止まらない…。
1.主人公トメクの変化と元から備わっていた人間性
主人公のトメクがガービの気を引こうとする前半は恋愛映画ともいえるくらい微笑ましいです。音楽も可愛らしく、ちょっとさえない雰囲気がスパイダーマンのトム・ホランドっぽさすら感じる。
しかし、自分の陰口の会話を延々と聞いている時点でトメクに対してどこか違和感を抱きました。
それは、他者からの評価を気にする現代人らしいともいえる特徴です。
他者が自分についてどう思っているのか確認しないと行動できないのでしょう。
そして、トメクは中傷ビジネスの会社に入ってからどんどん変わっていきます。
エスカレートした彼の行動には、模倣だといえるものがありました。ひとつ目はダンスクラブで誘惑するためのダンスを踊るとき。そしてふたつめはベアタに金が必要なのは「母のため」だと嘘をつくシーン。ここでは、セリフがほとんどグゼックの言葉を真似ていました。
もはや彼自身が意思をもって行動していたのはガービに恋していた前半だけだったのかもしれません。
ガービがニューヨークへ発つことを知ったトメクはついに全てのタガが外れたかのように暴走しはじめます。「何者でもない。誰にもなれない。何か変えないとゴミのままだ。」というグゼックへの発言は自分自身に向けて言った言葉だったのでしょう。
どんどんクマが濃ゆくなり、白髪が増えた姿からは、純朴な可愛らしいトメクではなくなってしまった事が分かります。そして、表情の変化がなにより内面の変化を現していました。トメク役のマチェイ・ムシャウォウスキーの演技が素晴らしい!
顔のアップシーンが多いのも、彼の変化を印象付けるための効果的な演出だったと感じました。
2.トメクの過去に何があったのか。【残された謎の解釈】
映画のはじめで、トメクはクラジュキ家に訪れてスマホのレコーダーをオンにして帰りました。そもそもこれは何のためにしたのでしょうか。
ガービに好意があったのは確かですが、夫妻もいる場に置いていったというのはほかに意味がありそうです。
そして、映画の後半で上司のベアタに「数年前に何が起きたのか?オランダで母親の葬儀をしたのはなぜ。クラジュキ家との関係は。」と聞かれていました。そこについての説明は作中ではなにもありませんでした。
これは私の解釈ですが、除籍処分になったことを夫妻へ伝えにいったもののガービの手前格好つけてしまい言い出せなかったのではないでしょうか。
まずはクラジュキ家で自分がどう思われているのかを知ってた上でタイミングを見て話そう、というつもりでレコーダーをしかけたのです。
また、豊かなクラジュキ家にくらべると、トメクは育った家庭で貧しい暮らしをしていたようでした。「養蜂場も客が来なくなり売り払うしかなかった。」というような発言や彼の食事の仕方や服装をからかう発言から、彼らがトメクを見下しているのがわかります。
また、別のシーンでガービの父親がトメクについて「精神異常は父親の遺伝だ」と言っているシーンがありました。オランダで母の葬儀をし、父は精神を病んでいた。生活苦のせいでトメクの両親は心も体も蝕まれていたのかもしれません。
そんなトメクは心のどこかでクラジュキ夫妻のことを憎んでいて、盗聴を続けるたびにその感情は膨らんでいったのです。そしてガービへの純粋な想いも最後には消え失せていたように見えました。
3.救いようのない事実が明らかになるラスト【ラストシーン解説】
討論会での騒動後、病室で目覚めたトメク。狙いどおりグゼックは捕まり、トメクは勇敢にテロリストに立ち向かった者としてテレビで報道されていました。
そしてネットではその雄姿をたたえて「トメクに感謝」活動が大勢にシェアされていました。
その活動を扇動したのはルドニツキの政敵だったショスカ氏です。
ショスカはおそらくトメクの犯行だと分かった上で「トメクに感謝」活動を行っていたのではないでしょうか。面識があり、ヘイト活動を自分が依頼していた会社の社員だと知っていたからです。「クズめ」とつぶやいたのはショスカに向けてだったのでしょう。
そして警察との聴取のシーンで、トメクが射撃場で警備員を殺していたことが明らかになります。
トメクは既に自分の手を汚していた...。
そして会社に戻って上司のベアタを脅迫します。ここで、全て計算済みだったことがわかります。
開き直って、同じ仕事を続けていこうとしているトメクにも衝撃を受けました。
完全に堕ちてしまったんだ…。トメク。。
そしてラストシーンです。
グラシュキ家に訪れたトメクはガービから優しいキスで迎えられ、食卓へ着きます。
夫妻がトメクの手を握り悲痛な表情で彼を見つめ、トメクは鋭い目つきで見つめ返す...。
トメクの顔から同情や優しさの色は当然見えません。はじめにディナーをしたときとは全くの逆の立場になって、夫妻を見下したような顔をしていました。