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『すばらしき世界』感想、考察。あらすじネタバレあり。不器用な生き方しかできない男にとってのすばらしき世界。おすすめ!


映画『すばらしき世界』を観ました。
泣いた…。西川美和監督の前作『永い言い訳』も良かったけれど、今作も本当に良い映画でした。
評価90点   

『すばらしき世界』作品情報

脚本・監督:西川美和

原案:「身分帳」佐木隆三

キャスト:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子、橋爪功
※画像は映画.COMより引用

『すばらしき世界』ざっくりあらすじ【ネタバレあり】

殺人罪による13年の服役を終えた三上正夫(役所広司)は、旭川刑務所を出て東京へとやってきた。
ヤクザとの関係を絶っていたが、当時の恋人久美子(安田成美)と居るところに日本刀を持った組の若者に襲撃され、彼を殺した罪で逮捕されたのだった。

福岡出身の三上の生い立ちは、芸者の母親に養護施設に預けられたものの数日で施設を飛び出して、その後も放浪生活をして10代で少年院に入っている。

その後は刑務所内でも騒ぎを起こし計13年間監獄暮らしをしていたのだった。

出所した三上をテレビで特集するためにテレビ局プロデューサーの吉澤(長澤まさみ)と、テレビ局をやめ小説家を目指している津乃田(仲野太賀)が三上の元に取材にやってくる。

三上と津乃田はしだいに打ち解けていくが、街でチンピラ相手に暴力をふるう三上を目の前にすっかり怯え切った津乃田は逃げてしまう。

三上は再就職のために免許を撮り直そうとするも容易ではなく、社会復帰は難航する。誰にも理解されず生活に疲れた三上は福岡にいる組の仲間に会いに行く。

手厚く歓迎してくれたが、彼は糖尿で足を失いヤクザ稼業で暮らしていくには難しくなっていた。彼らのもとに警察がやってきて、三上は友人の妻に促され東京へ戻ることになる。

津乃田は、三上が怒りの衝動をおさえられないのは幼少期に母親から捨てられたことが原因だと考え、母親の消息を追った。しかし当時の記録はほぼ残っておらず、三上は施設に手伝いに来ていた女性と会えただけだった。

東京でケースワーカーやスーパーの店員、身元引受人夫妻の手助けをかりて再就職に着いた三上。

介護施設の職員として働き始めた。同僚で障害をもつ青年がいじめられているのを見つけて止めに入ろうとしたが、相手に殴りかかりそうな衝動を抑えた三上。
他の同僚らとその後に作業をしているときに、例の青年を馬鹿にしたりヤクザについておちょくるような発言をする同僚に対して、三上はカッとなるのを抑えていた。

その仕事帰りに元妻と電話で話して、今度会う約束をしたのだった。彼女の娘も一緒に。

そして土砂降りの中帰宅した三上は階段を急いで駆け上がり、洗濯物を取り込んでいる途中で倒れて息を引き取ってしまった。

『すばらしき世界』感想、考察。ネタバレあり

私たちの生きる社会にはいかに残酷さと厳しさであふれているか、しかしそれでも世界はすばらしいと感じさせられる映画でした。

元反社会勢力に属していた者にとっての社会復帰の難しさ。また、異分子は弾かれ一度の失敗を許してもらえない世の中で生きていくことの困難が描かれています。

しかし、試練のなかでも三上の周りには親身になってくれるひとが沢山いました。そこがなにより素晴らしい。この世も捨てたものじゃないと思わせてくれるのはやはり人の縁です。
それも、過剰な演出などなしに自然に寄り添う優しさと、距離感をもって描いているところが秀逸でした。

最後まで、三上という男の生き様に寄り添った物語は想像の範囲を越えたラストへと向かって涙が出ました…。

印象に残ったシーンは沢山あったのですが、4つあげたいと思います。

ひとつめは、三上が元妻に会いに行って彼女の娘に何年生かと聞くシーンです。指折り数える三上の表情だけですべて説明してしまうこのシーンが素晴らしかった。3年生、9歳くらいだとすると三上が収監されてから4年後に生まれたということが分かります。

もしかすると離婚が成立した時期なのかもしれないし、そうでなくても納得と寂しさが混じったような三上の表情が全てを物語っていたように感じました。

ふたつめは、福岡に組関係の友人に会いに行ったシーンです。もうヤクザで生きていくのは簡単ではない。友人の奥さんが「あなたにとってはもう最後のチャンスだから行って」と餞別を渡して見送るシーンは胸に響きます。
めちゃくちゃ泣けてしまいました…。

そして3つめが、ようやく就職先が決まり働き始めた三上が、障害を持つ青年との関わりの中で自制を知るところです。

想像で暴力をふるうシーンは、てっきりそうしてしまったんだと思いました。そういう筋書きも考えられるし、どんなに更生しようとしても本来の気性は変えられなかったというストーリーになる可能性もありました。

しかしそうはならなかった。いじめられている彼を見て見ないふりをした三上が、声を掛けて止めることすらしなかったのは0か100しかない彼だからでしょう。

やめさせようと声を掛けたなら感情的になって手を出してしまいかねない。極端な行動しかできないから何もできなかったのかもしれません。

そして、帰り際に彼に秋桜をもらうシーンでは、橋爪功のセリフが思い出されます。
「大切なひとつのものを守るために、その他のことは我慢する。逃げることはときに必要だ。」というようなセリフです。

いじめられていた青年にとって、秋桜を摘んだことはきっと彼の大切なこと。三上と一緒に花壇に花の手入れを楽しそうにしていたことからしても、想像できます。

彼にとっては大切なことがそこにちゃんとあって、生きている。三上の涙は、そんな彼を守れなかった悔しさと青年の笑顔にどこか安心したことによるものだったんじゃないかと感じました。

そして、なんといっても最後の洗濯物からの秋桜へと続くシーンが素晴らしかった。
土砂降りのなか急いで洗濯物をとりこむ三上。しかし外に一枚のタンクトップを残して姿が見えなくなってしまった。
ここでもう、あぁ倒れたんだろうなと想像ができて胸がつまります…。

元妻との電話の後、あの職場で少年からもらった秋桜を手に取りにおいを嗅ぐ。そしてこの世界で生きたすばらしさを感じて息を引き取った。そんな風に感じられました。

厳しい現実を描きながらも、優しさと希望がつまったこの映画がとても好きです。

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