ヒューマンドラマ

『異端の鳥』感想、考察。【ざっくりあらすじネタバレ】人間の欲望と本質を描いた衝撃作。

映画.COMオンラインイベントにて『異端の鳥』を観ました。
痛いし辛い…。観る人は選ぶけれど、最後まで観て改めて人間の貪欲さについて考えさせられました。
評価75点   

※画像は映画.COMより引用

『異端の鳥』作品情報

監督:バーツラフ・マルホウル

原作:イェジー・コシンスキ

キャスト:ペトル・コラール、ウド・キア、レフ・ディブリク、イトゥカ・ツバンツァロバ―、ステラン・スカルスガルド、ハーベイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、バリー・ペッパー、アレクセイ・クラフチェンコ

作品解説

ナチスのホロコーストから逃れるために田舎に疎開した少年が差別に抗いながら強く生き抜く姿と、ごく普通の人々が異物である少年を徹底的に攻撃する姿を描き、第76回ベネチア国際映画祭でユニセフ賞を受賞した作品。ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した同名小説を原作に、チェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督が11年の歳月をかけて映像化した。東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である1人暮らしの叔母が病死して行き場を失い、たった1人で旅に出ることに。行く先々で彼を異物とみなす人間たちからひどい仕打ちを受けながらも、なんとか生き延びようと必死でもがき続けるが……。新人俳優ペトル・コラールが主演を務め、ステラン・スカルスガルド、ハーベイ・カイテルらベテラン俳優陣が脇を固める。2019年・第32回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門では「ペインテッド・バード」のタイトルで上映。-映画.COMより

『異端の鳥』ざっくりあらすじ【ネタバレあり】

数人の子どもたちに追われた主人公の少年はフェレットを抱いて走っていた。転んでしまった少年の目の前で、フェレットは子どもたちによって無残に焼き殺されていく。

マルタ(marta)

少年はナチスのホロコーストから逃れるために、母親と父親の迎えをおばさんの家で待っていた。
おばさんは泣きながら少年がピアノを弾くのを聴いていた。
数日後おばさんは死んでしまい、家も燃えてしまった。
行く場所を失った少年が集落へ出ると、村人らに捕えられ鞭打ちを受けた。少年は老婆から、「この子は魔王の手下で吸血鬼だ」と言われ、買われていったのだった。

オルガ(olga)

老婆に紐で縛られつれられて行く少年。人々を魔術のようなもので治療する老婆を手伝うようになった。
体調が悪くなった少年は穴に頭だけを出して埋められた。その四方を薪が囲っている儀式のようだった。
目が覚めるとカラスの大群によって少年の頭を突かれ流血する少年。老婆が追い払ってくれたのだった。

ミレル(milel)

川に落ちて流された少年は通りすがりの男女に助けられて、ある家にやってきた。
その家では婦人が夫に暴力を振るわれていた。使用人との不貞を疑われ、激昂した主人に使用人は目玉をくり抜かれてしまった。
目を失い打ちひしがれる男に少年は目玉を持って行ったのだった。

レッフとルミドラ(lekh&ludmila)

多くの鳥を籠に飼っている老爺と出会った少年。口笛を鳴らすと全裸の女性がカゴに入った鳥を持って現れた。その女性とセックスした老爺。

その女性は翌日、村の数人の少年たちを相手にセックスをしたのだった。
老爺は1羽の鳥に白く色をつけて空に離した。すると鳥の群れがその1羽を目掛けて攻撃をして、その鳥は死んで落ちてしまったのだった。
少年たちの母親の怒りをかった女性は復讐を受け、淫部に瓶を突き刺されて死んでしまった。助けようとした老爺も襲われた挙句、首を吊って死んでしまった。

少年は鳥籠の鳥たちを全員空に逃してやった。

ハンス(hans)

怪我をした馬を見つけた少年は馬の手当てを始めた。しかしある集落で馬は別の馬にロープで引きずられて死んでしまった。

その集落にやってきた男たちに酒を盛られて眠らされ、ドイツ人に引き渡されてしまった少年。
男性と線路を歩き、その先で逃げるよう目線で諭された。男性は猟銃を空に放ち少年は森へと逃げたのだった。
列車から逃げた人々を撃ち殺す軍人。生き残った人々は死んだ者の身ぐるみを剥いでいた。赤ん坊を抱いた女性も無惨に撃ち殺された。

少年は目の前で死んだ少年の靴をもらい稲穂の中を逃げていた。

司祭とガルボス(priest&garbos)

ドイツ軍に囚われた少年は処刑を免れ、司祭の元に連れてこられた。
司祭は少年に優しくしてくれていたが、病を患っていた。村の外れに住む男性に引き取られた少年。布団の中で裸で体を丸める少年。
家事でミスをすると体罰を受けるのだった。

司祭が訪れても言ったら殺すと犬を使って口止めされた少年。主人を穴に落として逃れたのだった。
司祭が死んでしまい、新たな司祭に仕えていたが式典の最中に転んでしまい村人全員から糾弾された少年は生き埋めにされてしまった。
自力で脱出した少年は川で服と体を洗って歩き出す。

ラビーナ(labina)

雪に覆われた山小屋にやってきた少年。氷の下に落ちてしまったところを女性に助けられる。
彼女は寝たきりの老爺の世話をしており、家に置いてくれることになったが彼女はその老爺とセックスしていた。そして少年に脚を舐めるよう言いつける。
女性と体を重ねるが、自分から触れたり優しくすると跳ね返されてしまう。
かと思えば誘うような態度でヤギの下で挑発的な態度を見せる女。

それを見た少年は怒って、その晩にヤギを殺して生首を彼女の家に投げ入れたのだった。
そして少年は老爺を待ち伏せして殴り殺してしまった。

ミートカ(mitka)

襲われる集落。家は燃やされ、容赦なく人々は殺される。少年を救った軍人は集落の人々を遠くから射殺したのだった。

ニコデムとヨスカ(nikodem&joska)

施設に入った少年。市場で盗みをしたと疑われて店主に殴られてしまう。後日殴った店主をつけて行き、銃殺してしまう。
警察にいると、父親が迎えに来る。

『異端の鳥』感想、考察


次から次へと少年にふりかかる災難、むごたらしく死んでいく動物たち…。ショッキングな映像が多いものの残酷なだけではなく、人間の本能や欲望を鮮明に描いた作品だと感じました。

異物を拒否する人間の本能と性の欲望

ユダヤ人の少年はひたすら差別を受け、人間としての扱いを受けません。それは、彼自身を毛嫌いするというよりは少数派の存在に対する拒否反応を表しているように思えます。

鳥かごの鳥の一羽にペイントをして空に放ったら、同じ種類の鳥たちに攻撃されて死んでしまったシーンがありましたが、そこでも異物を受け入れない集団の行動が象徴的に描かれていたと思います。

そして、ふたつめは「性」の欲望と支配欲のバランスについてです。妻の不義理を疑うあまり暴力に走り、男の目玉をくりぬいた主人のエピソードでは支配欲からくる暴力が描かれています。

また、集落の若い男たちと肉体関係を持った女性が彼らの親から報復をうけるエピソードでは、性がはらむ大きな怒りを容赦なく描いていたと言えるでしょう。
そしてそんな人々を目の当たりにした少年も、のちに肉体関係を結んだ女性に支配欲を持ち、嫉妬心からヤギを殺して見せしめにしていました。

結局肉体関係の延長線上には、独占欲や支配欲が否応なく存在しているのだと本作では訴えています。

少年の救い

物語が進むにつれて少年は彼に対して手を差し伸べる存在にも出会います。銃殺したふりをして逃がしてくれた軍人(ステラン・スカルスガルド!)や、教会で神の許しの元に面倒を見てくれた司祭(ハーベイ・カイテル!)です。よりによって唯一の救いだった司祭が、体が弱いなんて…。

あまりにも当然のようにひどい仕打ちの連続だったせいで、彼らの優しさがものすごく高尚なことのように思えます。

少年に優しくしてくれた人物の中でも最も少年に影響を与えたのは、バリー・ペッパー演じるミートカだったと思います。
「目には目を、歯には歯を」と彼に教えて銃を託してくれた男です。この後、盗みの濡れ衣を着せた商人を迷いなく射殺したのは彼の教えに従ったといえます。

物語が進むにつれ、少年は自分の意思で行動するようになり、商人を撃ち殺したり暴力をふるっていた男をネズミの穴に落とすなど暴力的な行為に出るようになっていました。

そして、ようやく現われた父親を前にしても彼は笑顔になることはありませんでした。少しだけ驚き、表情を歪める少年の反応があまりにリアルというか、そりゃこれだけ酷い目に合っていて「わー待ってた!」と喜ぶわけはないよな…と感じるシーンでした。

そして、父親の「名前も忘れてしまったのか」という問に対して、ラストシーンでバスの窓に名前を書く少年。
ひとりの人間としての尊厳を奪われ虐げられ続けた少年が、ようやく名前をもったひとりの人格として生き直す生活のはじまりを感じさせるシーンでした。

一応救いのあるラストで良かったものの、しかしこれだけのことを経験した少年の精神状態がものすごく心配…。人格形成に大きく影響のある思春期に悪影響をうけ続けてまっとうに生きられるはずがないでしょう。

これも戦争や独裁国家による弾圧の代償だと考えると、人間がはじめた戦争に狂わされた人々の悲しい物語に改めてやりきれなさを感じます。

人間の欲望や本質をバイオレンス要素とリアリティふんだんに描きながら、モノクロ映像の美しさに目をみはる美しさがある映画だったといえます。

鑑賞には覚悟がいりますが、一度は観ておきたい作品のひとつだと言えるかもしれません。

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